パライバトルマリンが語るもの
2004年の国際宝石学会である宝石の名前が議題に上がりました。
その宝石とは『パライバ・トルマリン』
『パライバ・トルマリン』は1988年ブラジルのParaiba(パライバ)州Batalha(バタルハ)鉱山のペグマタイト鉱床から鮮やかなブルー~グリーンのトルマリン(エルバイト)が発見されました。
Cu(銅)のイオンによって「エレクトリック」と表現される鮮やかなブルー~グリーンに着色された、この新種のエルバイトはその産地の名前をとって“パライバ・トルマリン”と呼ばれるようになりました、そして翌年のツーソンのジェム&ミネラルショーでおいて世界に紹介され瞬くうちに高値を呼ぶ人気石となったのです。
しかしこの最初の鉱脈からの産出は数年で途絶えてしまいます、それでもこの美しい石を諦めきれないガリンペーロ(鉱夫)達の執念と情熱は1990年代にBatalha鉱山から北に50キロ程離れたリオグランデ・ド・ノルデ州にParelhas地区に鉱脈を見つけだしました。(2つの鉱区Mulungu鉱区とAlto dos Quintos鉱区)
最初のBatalha鉱山とリオグランデ・ド・ノルデの鉱脈は地質学的には繋がっており産状も近い事から、日本では慣例上この二つの産地のCu(銅)含有トルマリン(エルバイト)をパライバトルマリンと呼んでいます。
しかし市場での人気とは裏腹にリオグランデ・ド・ノルデでの産出は少なく、石の大きさも小粒な物がほとんどでした。
ところが2001年になってブラジルから遠く離れたナイジェリアで“パライバ・トルマリン”と良く似たCu(銅)のイオン含有のエルバイトが発見されたのです。
当初ナイジェリアのトルマリン(エルバイト)はブラジルの物に比べ銅の含有率が低い為色が薄く、その反面大粒の物が多い等の特徴があり、含有物の分析によって鑑別は可能と言われていました。
ところが2004年ナイジェリアで新たに産出された“パライバ”タイプのトルマリンはブラジル産のパライバ・トルマリンと非常に良く似た分析結果となり成分含有率からの鑑別が難しい事が解りました。
産地が違っていてもほぼ同じ石という事になると既にブランドネームとなっているパライバの名称を使いたくなるのが人情です、斯くして2つの産地の石が市場に同じ名前で混在する事になってしまいました。
そこで問題となるのが“パライバ”という地名を含んだ名称です。
アフリカとブラジルという全く異なる産地の石を同種であるとい事から同じ名前で呼ぶか、地名を含まない新しい名前を考えるか等の議論を呼んでいる様ですが未だ結論は出ていない様です。
さて、長々と書いてきましたがホントは名称なんてどーでも良いのです、私的にこの話しのツボは何故遠く離れたブラジルとナイジェリアで同じタイプの石が採れるのか?という点にあります。
実はこれにはとても明解な答えが用意されているのです。
答えはこれ↓
南米とアフリカの2ケ所の産地はもともと地繋がりだったから。
そう昔学校で習った大陸移動説、約2億5千万年前のゴンドワナ大陸の存在をこの小さな石は示してくれているのです。
人間の歴史の尺度とはスケールの違う「石」と言う存在の神秘を改めて感じます、ホント名前なんてどうでも良くなりますよね(笑)