貝の火
この石は先日のIMAGE2005でオーストラリアのオパール屋さんの均一価格のお皿の中から見つけました。
巻貝がオパール化したものを以前から探していたのですが、なかなか良いものには出会えず有ったとしても大変高価なので今迄購入を断念していたのです、この石も最初見た時は一桁価格を間違えてるのではないか?と思ってしまいました。
遊色に赤系の色が出ていない、一部オパール質の剥落があるなど細かく見れば欠点もありますが、貝の形状も良く分かるし青系のみですが遊色もはっきり出ているので数千円台のShell Opalとしては掘り出し物だと思っています。
さて、貝オパールを探し求める人にはある物語を記憶に留めている人が多いのではないでしょうか?
子ウサギのホモイがひばりの子を身を挺して救ったお礼に鳥の王から貰った宝玉「貝の火」後に幼いホモイに余りにも残酷な運命をもたらすその宝玉を宮沢賢治は次の様に表現しています。
玉は赤や黄の焔をあげて、せわしくせわしく燃えているように見えますが、実はやはり冷たく美しく澄んでいるのです。目にあてて空にすかして見ると、もう焔はなく、天の川が奇麗にすきとおっています。目からはなすと、またちらりちらり美しい火が燃えだします
賢治は文章中にオパールの名前はいっさい出していませんが「石ッコ賢さん」と呼ばれる程の石好きだった彼の事、美しい遊色が煌めき貝から変化する事もあるオパールを脳裏に浮かべていたのではないかと思うのです。
物語の中で子ウサギのホモイはこの宝玉を得た事で次第に増長し、本来の純粋さを失ってしまいます、しかし持ち主の心がけ次第で美しく輝いたり光を失ったりする筈の「貝の火」はホモイが悪い仲間に唆され悪行を重ねる度に更に美しく輝き彼を後戻り出来ない時点まで追いつめて行くのです。
結局ホモイの「貝の火」はその輝きを6日間しか保てませんでした。
その輝きが失われ「貝の火」が砕け散った時ホモイ自身もまた大きな代償を支払うはめになってしまいます。
『たとえ僕がどんな事をしたって、あの貝の火がどこかへ飛んで行くなんて、そんな事があるもんですか。』と純真なホモイに信じ込ませる「貝の火」とはいったい何を象徴するものなのでしょうか…
名声、人とは違う能力による奢り、そして財産、賢治は人と自分を隔てるそうしたものから生涯距離を取り続けました。
そうしたものの「移ろいやすさ、脆さ」「人の心の儚さ」を美しい色彩を持ちながら環境次第ではヒビが入りその鮮やかな遊色を失ってしまうオパールに託したのではないか私には思えるのです。