「パライバクォーツ」は何処から来たのか?
先日UPした「ギラライト入り水晶」について虚空座標のKuroさんが興味深い疑問を提示されています。
ギラライト入り水晶は一般に「パライバクォーツ」の名前で知られ、その名前は産地であるパライバ州からきているというのが通説ですが、実際にはパライバ州で産出はなく産地はセアラ州(Ceara)なのではないかと云う情報があるというのです。
さて、私も気になったので調べてわかった事をまとめてみました、かなり長文なのでご注意。
KUROさんがコメント欄で書かれているように、この石は発見が新しく資料が殆どありません。
手持ちの資料を片っ端からあたったところGIA(アメリカ宝石学協会)の季刊誌Gems & Gemologyの2005/FALL号の中にレポートを見つけました。
それによるとギラライト入り水晶について「2004年8月にブラジルのパライバ州の鉱山よりブルー~グリーンの興味深い内包物が含まれた宝石質の水晶が発見された、その鉱山からは(同種の石が)約10Kgが採集されている(中略)この「クラゲ状」の内包物はパリの「国立自然史博物館」においてX線検査を用いて調査され銅含有の鉱物であることが解った」という内容の記述があり、GIAはこのギラライト内包物の独特のフォルムがある種のクラゲに似ている事からこの水晶を「MEDUSA(くらげ)QUARTZ」と名付けています。(英文テキストしか手元にないので翻訳多少間違ってるかも^^;)
また2006年発行の日独宝石研究所の「Geminformation33・34合併号」にもほぼ同一の記述があり、「2004年8月(一説では2003年中頃)ブラジル北東部のパライバ州で水晶結晶中に」発見されたとあります。
わざわざGIAに鑑定を依頼するのに産地偽装はしないでしょうから、少なくとも初期ロットは「パライバ州」で採れたものと考えて良いでしょう、その後(2005年頃という説あり)にパライバに近いセアラ州でも同様の水晶が発見されたようです。
どうやら、このタイプの水晶の産地は少なくとも2カ所あるようです。
「パライバクォーツ」が市場に出てきた経緯を思い出すと、先ず「クラゲ」タイプの内包物が入ったルースが出てきてしばらくしてやや価格の安い「青カビ」タイプの石が出てきました、その時点では大変高価であった記憶があります。
その後少し経ってからミネラルショーなどで見かける機会が増え価格も下がった様に記憶しています、推測ですがこの価格が下がった辺りで出てきたのがセアラ州産の「パライバクォーツ」なのではないでしょうか。
市場に出ている石の殆どがセアラ産という話が本当ならば、当初のパライバ州からの産出量「10kg」以後、同産地からの産出量が極めて少なくその後発見されたセアラ州の鉱山産の石の方が多いのかもしれませんね。
ただ、GIAのレポートの中に掲載されているパライバ産のルースの写真の中には丸い「クラゲ」状の結晶が入るタイプに加え放射状の結晶が敷き詰められた「青かび」タイプの物もありますので内包の形状によって産地が違うという説には疑問を感じます。
問題の「パライバクォーツ」というネーミングについては…初出の産地名で呼ぶ事は良くある事なので(アフリカ産まで「パライバ」と呼ばれるトルマリンの前例もありますし)ダメという事でも無いとは思うのですが、限りなく「グレーゾーン」なネーミングとしか言いようがありません。
GIAは内包物の形から「MEDUSA QUARTZ」と呼んでいますし、欧米のサイトなどではむしろこの名前の方が通りが良い様に感じます。
しかし「クラゲ水晶」ではあんまりロマンティックではないし説明も難しいしというわけで、おそらくパライバトルマリン大好きな日本市場を意識した「コマーシャルネーム」なのではないかと思います。
さて先日紹介した私が持っている原石はどちらのものかというと…これはラベルを信用するしか有りません(大汗)
前述のGIAのレポートを読むと当時7個のパライバ産のサンプルが鑑定に持ち込まれ、その中には結晶状の原石、カボッションに磨かれたルースとカチ割りのラフが含まれていた模様です、原石には幾重にもレイヤー状に重なった層が見られ、中にはライトパープルのアメシストと無色の水晶、肉眼で確認出来るブルーからグリーンの内包物が層を為しているものが有ったとの事で、この原石の特徴は先日IJTで出ていたものと良く似ています。
写真のルースは原石と同じ業者(と記憶している)から購入したティアドロップ型のカボッションタイプのルースです。
小さいけれど内包物の特徴が解りやすいものを選んでみました。
これも「パライバ産」になっているのですが…本当はどうなんでしょうね?