アデュラリアンムーンストーンの謎(前編)
Adularia with Hematite/ Graubunden/Switzerland
写真の原石はアデュラリア(氷長石)して購入したスイス産の長石の一種です。
サイズは大人の男性の掌程の大きさが有ります、鉱物好きに100の質問の中でWEBで注文して実店鋪に取りに行ったら予想外に大きくて驚いたと書いたのはこの石の事なのです。
ムーンストーンが属する長石グループ(Feldspar)は大きく分けてカリウムが主成分のカリ長石(Orthoclase/KAlSiO8)ナトリウムが主成分の曹長石(Albite/NaAlSi3O8)カルシウムを主成分とする灰長石(Anorthite/CaAl2Si3O8)の3つに分けられ、その間に様々なバリエーションが存在します。(下図参照続きを見るをクリックして下さい)*1
特にカリ長石と曹長石の間に存在する長石群をアルカリ長石グループと呼び、お馴染みのムーンストーンはこのグループに属します、また曹長石と灰長石の間に存在する鉱物群は斜長石グループと呼ばれラプラドライトはこのグループに属するのです。
この長石を詳しく説明しようとすると膨大な文章が必要となる為、ここは美しい画像と共に長石グループの詳細な解説を試みられている「虚空座標」のクロさんのエントリーを参照して頂く事にして、ここでは写真のアデュラリアンムーンストーンに絞り込んで見ていきたいと思います。
アデュラリア(Adularia)は和名を氷長石(こおりちょうせき)と言い、スイスのAdular地方のSt.Godtthadで産出した事から名付けられたカリ長石の一種です。
日本で産出するものは白色の不透明の結晶が殆どですがスイス産のものは氷長石の名に相応しく氷のように透明な結晶が採れる事で知られています。
ここ数年スイスと同じアルプス周辺国であるオーストリアからアデュラリアの名前を冠した宝石質の美しいムーンストーンが産出されるようになりました。
透明な石の中に青白色のシラー(閃光)が浮かび上がる素晴らしいムーンストーンで、私もすっかりその独特の美しさの虜となり銀台にこの石を嵌め込んだ指輪を殆ど着けっぱなしにしているくらい大好きな石です.(余談ですがこの石のモース硬度は6なので普段着けっぱなしにするのには向きません、私の指輪の石もかなり表面傷がついてしまっています(^^;A石に傷が付くのが嫌な人は御用心下さい)
好きな石の事は深く知りたいと思うのが人情ですが、お店等の説明文を読む内にふと疑問が湧いていました。
「アデュラリアンムーンストーンってホントに氷長石と同じものなんだろうか?」
一般的に宝石学で言うところのムーンストーン(月長石/Moonstone)の定義とは
「重要な正長石の宝石で正長石と斜長石系列の端成分であるアルバイトとの層状組織による光の干渉効果と散乱によって青色~白色のシラー(閃光)を示すもの」(ウェブスター「GEM」)
要するにムーンストーンとはアルカリ長石の内、正長石と曹長石が混じりあった混合石(パーサイト)*2でこの2種類の鉱物の薄い層が重なりあう事によって層状組織が作られ(これをラメラ構造*3と呼ぶ)それによって光の屈折や散乱が生じ美しいシラーを生じるものを指すもので、それ自体が独立した鉱物では無いと言う事なのです。
宝石の事典をみると透明な正長石をアデュラリアと呼ぶと書かれていますから特に問題は無いように思えます。
しかし本当にこのアデュラリアは氷長石の事なのでしょうか?
この続きは長くなり過ぎるので翌日分のエントリーに書きます。
*1長石(Feldsper)グループを図式化したもの
*2
パーサイトはその混合している組織のサイズによってパーサイト(肉眼から光学顕微鏡で見えるもの)クリプトパーサイト(電子顕微鏡レベル)に分けられる。
*3
Lamellar